ある歌をめぐって年初から両岸が騒々しい。中国が台湾のアーティストたちに交渉して制作した歌に対して、台湾が反発しているからだ。問題の曲はこのほどリリースされた『我們同唱一首歌(私たちが一緒に歌うこの歌)』だ。中国人作曲家の楊宗南と台湾人作詞家の方文山が手がけ、中国人歌手の袁婭維や台湾人歌手の蕭敬騰らが歌った。叙情的な歌詞とメロディーで家族愛や郷愁が中国語と台湾の閩南語で歌われている。台湾関連業務を担当する中国国務院台湾事務弁公室は「台湾同胞が故郷を懐かしみ、みんな一緒に集まれるよう望む気持ちを込めた」と話している。
しかし、台湾の対中国機関である大陸委員会は長文の批判声明を出した。「中華民国は主権国家であり、一瞬たりとも中華人民共和国の一部だったことはない。中共は文化芸術を彼らの政治イデオロギー伝播(でんぱ)の道具として利用しているが、このような統戦歌曲は台湾人たちの反感ばかり買うことになり、逆効果をもたらすだろう」と激しく反発した。この歌を、台湾存立を脅かす中国共産党統一戦線の戦術の一環と見なしたのだ。
1曲の歌に対する反応としては過敏ではないだろうか。だが、ミュージックビデオを見ると、台湾の危機意識に共感してしまう。台湾で暮らす孫が中国にいる祖父の家を訪れて家族・親族と再会するというストーリーをもとに、台湾と中国のそれぞれに建てられている海の女神「媽祖」に似た石像を並べて見せる。民族的均質性を前面に押し出し、中国による吸収統一の当為性を強調するシーンがあちこちに出てくる。中国の軍事脅威と外交戦略に悪戦苦闘している台湾は、この歌を新たな和戦両様戦術だと受け止めている様子だ。
台湾の状況は韓国が直面している現実を振り返らせる。北朝鮮は新年が明けて1カ月もたっていないのに、迎撃が不可能な極超音速を含めて6回もミサイルを発射し、核実験の再開まで公言している。前例のない危機的な状況だが、青瓦台(大統領府)と韓国軍は北朝鮮の顔色をうかがうのにきゅうきゅうとしていて、大多数の国民にとっては関心事の外にある。このような状況になったのは、長年の北朝鮮融和政策により自ら武装解除してきたせいだ。北朝鮮を善良な民族の一員として描いた映画・ドラマ・本などの文化コンテンツがあふれ、人為的な南北交流、五輪開会式における南北合同入場や鉄道連結などのイベント性の強い行事も相まって、北朝鮮政権に対する警戒心が崩れてしまった。
北朝鮮は昨年、韓流コンテンツを国家に対する重大な脅威と見なし、これを根本から断つための「反動思想文化排撃法」を制定した。その一方で韓国は、「北朝鮮は主敵だ」という声が上がれば逆にニュースになる社会になった。大韓民国は表現の自由が保障されている民主主義社会であり、また北朝鮮政権の脅威に直面している分断国家でもある。「我が民族同士」をうたう宣伝術に飼いならされ、社会の根幹が揺らいではいないか、台湾の状況を教訓として冷静に点検しなければならない。
鄭智燮(チョン・ジソプ)記者