リオデジャネイロ五輪を控えた5年前の夏、柔道男子60キロ級韓国代表の金源鎮(キム・ウォンジン、当時24歳)は世界ランキング1位だった。江原道鉄原郡の山のふもとにある自宅を本紙記者が訪問した時、家の中には数百個のメダルと盾が輝いていたが、その中で小さなキーホルダーの人形が目に入った。日の丸が描かれた柔道着を着た人形で、横に倒れていた。記者がその人形を立たせようとすると、父親のキム・ギヒョンさん(当時49歳)に止められた。「私がわざと倒したんですよ。源鎮がリオで(日本の選手を)このように倒してほしいと願う意味で」と教えてくれた。
金源鎮は当時、「天敵」髙藤直寿=日本=に4戦全敗していた。リオ五輪で髙藤にさえ勝てれば金メダルにも手が届くと見られていたが、ベスト16戦でロシアの選手に一本負けを喫し、敗者復活戦でも髙藤に負け、メダルへの夢が消えた。金源鎮は1年余り迷った末、柔道着の帯を再び締めた。「一生をかけて私の柔道を支えてくれた父に必ず五輪のメダルをかけてあげたいです」。吐き気がするほどつらい練習に耐えられた原動力は父ギヒョンさんだった。
しかし、その父はもうこの世にいない。今年初め、金源鎮が柔道ワールドマスターズ2021カタール・ドーハ大会に出場し、生まれて初めてメジャー大会で金メダルを取った時、ギヒョンさんは自宅の裏山を妻と歩いていて心臓発作で倒れた。「突然の別れがよほど悔しかったのでしょう。夫は最期も目を開けていました。息子が小学校2年生の時に柔道を初めてからずっと、全国各地で行われる試合を追いかけて全部映像を撮影して分析し、良い食べ物があったらどこへでも飛んでいって持ち帰り、食べさせるなど、すべてを源鎮に注いだ人だったので…」と母のシム・ウンジュさん(50)は語った。