「脱北者すら、ビラ散布は北朝鮮住民に知る権利を保障するわけではないと証言している」。これは、韓国与党が対北ビラ禁止法(南北関係発展法改正)案を強行処理した翌日(12月15日)、韓国統一部(省に相当)が本法についての説明資料だとして配った内容の一部だ。北朝鮮出身者である記者は、目を疑った。北にいるとき、対北ビラと一緒に飛んできたラジオを通して外の世界のニュースに接し、脱北まで決心した当事者として、統一部の主張はうそだということを知っているからだ。民間対北ビラの「元祖」と呼ばれる李民馥(イ・ミンボク)対北風船団長も「私がビラを飛ばすのは、北でビラを見て脱北したからだ」と何度も証言してきた。大多数の脱北者の考えは、これと大きく異ならない。太永浩(テ・ヨンホ)議員も「南北が手を取り合って北朝鮮住民の目と耳、五感を二重、三重に遮断した」と批判した。
統一部の説明資料は、従来の常識に反するこじつけにまみれていた。「ビラ散布が北朝鮮の人権を改善するという証拠はない」という主張もその一つだ。その根拠を見てみると「(ビラ散布は)むしろ北朝鮮当局の社会統制強化で北朝鮮住民の人権を悪化させる逆効果ばかり引き起こす」と書いてあった。この論理の通りであれば、北朝鮮当局の統制強化を誘発する行為は全て禁止して当然だ。例えば、北朝鮮当局がこのところ取り締まりに血眼になっているKポップや韓流ドラマの流入も、統制強化を誘発しかねないので制作を自粛しろというのだろうか。