英国中西部のサントンブリッジという田舎で毎年11月に「うそつき世界一大会」が開かれる。19世紀にこの集落に住んでいたリトソンという名の老人にちなむ行事だ。パブの主人だったリトソンはいつももっともらしいうそで客を楽しませていたという。誰でも大会に出場できるが、政治家と弁護士だけは参加できない。「うそつきの技術があまりに優れているため」だという。うそと言えば政治家を思い出すというのはどの国でも同じだ。
政治家は大抵積極的なうそではなく、うまくかわそうとする発言が多い。例えば、「偽装転入したことがあるか」との問いに対し、政治家は「ない」とは言わずに「記憶にない」と答える。後日偽装転入が事実と発覚しても、うそではなく、発言が誤りだったということになるからだ。ギリシャ神話のヘルメスはよくうそをついた。ゼウスが「うそをつかないと誓え」と言うと、ヘルメスは「うそはつかないが、真実をあまり話さないかもしれない」と答えた。政治家と弁護士は現代版のヘルメスと言える。
昨年韓国人は歴史に残るうそつき夫婦を知ることになった。本人の生まれ年から始まり、娘の誕生日、娘の出生届提出者といったことまでうそが疑われた。年に一度しか会わないおいに全財産を預け、投資させたというチョ・グク夫妻のことだ。チョ氏の昨年の記者会見での姿が思い出される。チョ氏は「自分はコリンクという名前を今回知り、私募ファンドが何かも知らない人間だ。自分はもちろん、妻も私募ファンドの構成も運用も知るはずがない」と語った。表情やジェスチャーまで駆使した。
ところが、チョ氏夫妻が2018年、私募ファンドに投資した当時、「税金が2200万ウォン(約197万円)かかった」「不労所得だから言うことはない」「それで財産総額が増えた」などという携帯メールをやりとりしていた事実が法廷で公開された。私募ファンドが何かも知らないと言っておいて、税金がかかったこと、不労所得を得たことを全て知っていた。この程度のうそとなると、自分もうそをついているとは知らずについているうそではなかろうか。
うそをつくと顔に出る。悪いうそをつこうとすれば、顔がほてり、冗談でうそをつけば笑みが浮かぶ。ところがチョ氏夫妻の特徴は何かつらく虐げられたような表情や口調でうそをつくことだ。俳優も顔負けだ。彼らの鉄面皮に隠された表情が夫婦の携帯メールのやりとりに表れている。悲壮な顔で乗り込んだエレベーターの鉄板の後ろで明るく笑っていたチョ・グク氏の表情のように。
ハン・ヒョンウ論説委員