9万3000人の在日韓国人が1959年から25年間にわたって北朝鮮へ送られた事件は、北朝鮮政府が引っ張り日本政府が後押しした、希代の人権じゅうりん事件だ。とりわけ1950年代末、日本の体制側は「植民支配に怨恨を抱く韓国人を一人でも多く日本の地から出ていかせるのがいい」という判断の下、北朝鮮の「帰還事業」を積極的に支持した。日本の共産党から自民党まで、日本の言論メディアから社会団体まで乗り出して、在日韓国人を北朝鮮へ送ることに熱心だった。
その後、北送された在日韓国人はもちろん、日本人妻やその子どもらおよそ6000人も差別待遇を受け、苦痛に満ちた生活を送ったことが確認されたが、日本政府は微動だにしない。「全ては在日韓国人の自由意志によって進められた」として顔を背けている。
日本政府だけでなく裁判所も、彼らの被害救済に消極的だ。在日韓国人北送事業で北朝鮮へ渡り、その後脱北した被害者5人が、昨年8月に金正恩(キム・ジョンウン)政権を相手取って日本の裁判所に損害賠償請求訴訟を起こした。「北朝鮮が『地上の楽園』だと偽った『帰還事業』に参加して人権を抑圧された」として、日本の裁判所に訴え出たのだ。5人は北朝鮮で十分な食料の配給が受けられず、出国を禁止され、人権をじゅうりんされたと主張し、北朝鮮の金正恩政権に総額5億円の賠償を要求した。
北送事業の被害者を支援している日本人弁護士らによると、日本の裁判所内部には、この訴訟を受け入れるべきだという雰囲気があるという。日本で2009年に制定された「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」により、北朝鮮は未承認国であって「国家免除」を受けられる外国に該当せず、裁判は可能だという。また、北朝鮮が詐欺行為で在日韓国人を連れていった後、出国を許さなかったことは一種の拉致であって、民法上の不法行為の時効は適用されないと判断しているという。
北朝鮮に抑留され拷問の後遺症で死亡した米国の大学生オットー・ワームビアさんの両親が昨年、米国の裁判所に起こした損害賠償請求訴訟が認められた点も、前向きな変数だ。当時、米国の裁判所は金正恩政権の責任を問い、5億ドル(現在のレートでおよそ540億円)の損害賠償を命じた。
こうした雰囲気を基に、今年初めから裁判が始まる可能性が高いという見込みが出ていたが、裁判が始まるかどうかは依然として不透明だ。東京の消息筋は「韓国の裁判所が、全ての事案に関与する司法積極主義を信奉しているのとは異なり、日本では司法消極主義がまん延していて、日本の裁判所は日本政府の顔色をうかがっているらしい」と語った。これに先立ち、在日韓国人の脱北者が在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)を相手取って類似の訴訟を起こしたが、証拠不十分などを理由に裁判は開かれなかった。