かつて、小中学校周辺の書店に広く置かれていた参考書の表紙には、白馬に乗ったナポレオンの絵が描かれていた。前足を振り上げた白馬の上でマントを翻し、皆が「不可能だ」として引き留めたアルプスを越えていくナポレオンの姿は英雄そのものだ。宮廷画家が手掛けたこの絵画は、進取的な指導者のイメージを浮き彫りにし、ナポレオンの人気を高める上で役立った。だが実際には、ナポレオンがアルプスを越える際に乗ったのは大きくて躍動的な白馬ではなく、小さなラバだったという。
白馬の大部分は、灰色の馬が年を取って白い毛が多くなったもので、自然の白馬は非常にまれだ。このため純白のたてがみをひらめかせる白馬は、古今東西を問わず神聖な存在として扱われてきた。新羅の始祖、朴赫居世は、白馬が空に昇っていく際、その場に残した卵から生まれた。西洋の神話で力と純潔を象徴するユニコーンは、空を飛ぶ白馬の姿をしている。王子や騎士も、いつも白馬に乗って登場する。
近代に入ってからは、絶対君主や戦争指導者が主に白馬に乗った。太平洋戦争を起こした昭和天皇は「吹雪」「白雪」「初雪」という名の白馬に乗った。イタリアの独裁者ムッソリーニ、「砂漠のキツネ」と呼ばれたドイツのロンメル将軍が白馬に乗った写真も残っている。1945年6月にモスクワの「赤の広場」で開かれたソ連軍の戦勝記念式では、スターリンに代わって大戦の英雄ジューコフ将軍が白馬に乗って軍の査閲を行った。白馬が前足を振って起き上がるのでスターリンが乗れなかった、という説もあるという。
16日、北朝鮮メディアは金正恩(キム・ジョンウン)委員長が白馬に乗って白頭山に登る写真を複数公開した。白い毛が交じっている他の幹部の馬と違い、金正恩委員長の馬は雪のように白く、華麗な星の装飾まで付いている。北朝鮮は3代にわたり、白馬をいわゆる「白頭の血統」の象徴にしてきた。金日成(キム・イルソン)主席、金正日(キム・ジョンイル)総書記が白馬に乗った絵は北朝鮮の各所で見ることができる。金日成は白馬に乗って戦場を回り、抗日運動を行ったと宣伝するかと思えば、金正日のためには「将軍様、白馬に乗って駆ける」という賞賛の歌を作った。
21世紀にもなって馬に乗り山に登るという時代錯誤なショーは、北朝鮮でなければ世界のどの国で可能だろうか。北の各メディアは、馬上の金正恩に向けて「偉大な思索の瞬間」だとか「世間が驚く雄大な作戦が繰り広げられるだろう」とか記して偶像化に乗り出した。シンガポール米朝首脳会談などで北朝鮮を正常な国にできるかもしれないという見方があったが、白馬ショーは、全てが詐欺だったという事実を示している。北朝鮮と共にコリアンと呼ばれるのが本当に恥ずかしい。