事故や災害で被害が予想されるのにもかかわらず、「大したことないだろう」と思っているうちに惨事となる現象の原因を、社会心理学者たちは「正常性バイアス」(Normalcy bias)という言葉で説明する。過去に何度も経験した時の記憶にとらわれ、より大きな危機に直面しても、自分にとって大したことない状況だと認識しようとする心理的傾向は「経験の逆機能」の1つだ。日本に対する文在寅(ムン・ジェイン)政権の対応はこれに当たるのではないかと強い疑問と不安を抱いてしまう。
10月30日の徴用被害者(徴用工)に対する韓国大法院(最高裁判決)は極めて「大韓民国の裁判所らしい」判決だ。外交条約にまで口出しできる司法権を持つ裁判所は、経済協力開発機構(OECD)加盟国にはほかにないと聞いた。約50年間にわたり維持してきた合意や約束を覆せば相手が反発して関係が悪化するだろう、ということは誰もが知る事実ではなかったのか。ところが、韓国外交部(省に相当)は「日本側の過度な反応を遺憾に思う」と言い返した。ほおを殴っておきながら、殴られた人が腹を立てるのを非難するのと同じだ。
韓日関係が悪化すると、これまで例外なく代償を支払ってきた。代表的なケースとしては韓日漁業協定がよく挙げられる。金泳三(キム・ヨンサム)大統領退任1カ月前だった1998年1月23日、アジア通貨危機や政権交代期に乗じて、日本政府は協定破棄を一方的に通知してきた。続く金大中(キム・デジュン)政権は「無協定状態」を避けるため、日本が要求する通り独島(日本名:竹島)周辺の「共同水域」を譲歩するしかなかった。これらは、金泳三大統領の「日本の性根をたたき直してやる」といった発言など、度を超えた対日強硬外交が生んだ惨事だという話が伝説のように言い伝えられている。
金大中政権は韓日友好ムードを生み出したが、日本人を誘拐した辛光洙(シン・グァンス)元北朝鮮工作員を日本側の要請を無視して北朝鮮に送還すると、日本政府は在日韓国人系銀行設立拒否や情報共有拒否で対抗した。その後も日本側は通貨スワップ中止など金融制裁という切り札を随時使用してきた。盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領時代には、同大統領が「外交戦争も辞さない」と宣言するや、在日韓国人に対する税務査察強化・留学生研修支援中止といった措置が新たに取られた。