文在寅(ムン・ジェイン)大統領が統計庁長を交代させた。これまで統計庁長は一度任命されると通常2年前後の在任期間があったが、今回は13カ月で交代となった。その理由も明確ではない。最近、統計庁はまさに災害レベルと言える雇用の減少や所得の二極化という今の現状を示す統計を発表した。突然の統計庁長交代はおそらくこの発表と何らかの関係があるのだろう。
雇用と所得に関する統計は今年に入ってどれも悪化を続けている。失業率はここ18年で最も高く、失業者数は7カ月連続で100万人を上回っている。昨年月平均30万以上増加していた雇用は今年に入って10万程度の増加にとどまっていたが、先月はわずか5000しか増えなかった。とりわけ今年1-3月期には国民の間で所得の二極化が過去最高となり、その実情を示す統計の発表が大統領府を怒らせたようだ。経済政策の誤りで悪い結果が出たのであれば、政策の立案者が責任を取るのが普通だ。ところが今の政権はその責任を統計庁長に押し付けている。世界にこのようなことをやる政府がどこにあるだろうか。辞任した統計庁長はメディアの取材に「私はそれほど従順な人間ではなかった」と言い残した。大統領府から非常に強い圧力があったことをうかがわせるコメントだ。
文大統領は今の経済政策を今後も続ける考えを示し、その一方で統計庁長に責任を問うたわけだが、それは「今後は良くない統計を発表するな」という意味に受け取るしかない。そのため今回新たに任命された統計庁長は、おそらく大統領府の意向に沿った統計を発表できる人物が選ばれたのだろう。今年5月に大統領府は保健社会研究院と労働研究院に対し、統計データを改めて分析し直すよう指示した。本来は家計ごとの統計だったのだが、これを個人ごとに書き換え「所得が減ったのは下位10%の就業者のみ」と言い換えた資料が作成された。これを根拠に文大統領は「最低賃金の引き上げによる肯定的な効果は90%」と強弁した。その当時、「統計庁の標本には問題がある」として新たな資料を作成した保健社会研究院の張本人が今回新たに統計庁長に就任した。