韓国の情報機関・国家情報院は15日、北朝鮮のハッカー集団が4月と9月に韓国国内の2カ所の仮想通貨取引所にサイバー攻撃を仕掛け、76億ウォン(現在のレートで約7億9000万円、以下同じ)を盗み出した証拠を見つけたと発表した。盗まれた仮想通貨を現在の価値に換算すると900億ウォン(約93億円)に達する。北朝鮮は仮想通貨取引所の一つビットサムの3万人以上の会員情報も盗み出し、個人情報を削除する見返りにビットサムに総額で60億ウォン(約6億2000万円)を要求してきたという。国際社会から厳しい制裁を受けている北朝鮮が日常的にサイバー攻撃を行い、世界中で外貨稼ぎをしている実態はすでに広く知られているが、今回は韓国から仮想通貨を奪い去っていったのだ。ビットコインが世界で注目を集める中、韓国でもここ2年で100カ所以上の取引所が新たに立ち上げられ、1日の取引総額も6兆ウォン(約6200億円)を上回り、今や店頭市場コスダックよりもその規模が大きくなっている。ところがそれら多くの取引所はサイバー攻撃への備えが事実上行われていない。北朝鮮にとっては完全なカモになっているのだ。
仮想通貨は取引の匿名性が保障されるため資金洗浄がやりやすい。国際社会からの制裁で手足を縛られたも同然の北朝鮮が仮想通貨を奪うことに力を入れるのもそのためだ。北朝鮮はこのようにして集めた仮想通貨を第三国の取引所でドルやユーロに交換し、核・ミサイル開発に使っている。これに対して韓国政府は仮想通貨を金融商品として認めていないため、サイバー攻撃などへの備えが非常にずさんだ。米国や日本は登録制度あるいは許認可制度を導入し、仮想通貨の取引所に対するセキュリティーを一層強化している。
北朝鮮によるサイバー攻撃を防ぐのは韓国軍サイバー司令部だ。ところが韓国軍サイバー司令部は過去の政権でネットでの政治工作を行った容疑で捜査を受けていることから、国防長官は仮想通貨に対するサイバー攻撃対策は事実上お手上げ状態にあると明らかにした。サイバー司令部はかつて1日平均10件以下の書き込み工作を行ったことを理由に、今北朝鮮からのサイバー攻撃に全く備えができない状態にあるというのだ。サイバーセキュリティーを担当するもう一つの部処(省庁)である国家情報院も同様で、いわゆる「積弊清算」への取り組みにより本来の業務を果たせないという。このままで本当に国を守れるのだろうか。