いくら忙しくても一日4時間の練習は欠かさない。「大作曲家たちの作品で弾きやすい曲は一つもありません。ショパンをうまく弾こうと思ったら、バッハ、モーツァルト、ベートーベンもよく知らなければ、彼らとショパンがどう違うか把握できません。そうした作品に安易に接するのは礼儀にもとるし、あり得ないことだと思います」。母国での「チョ・ソンジン・ブーム」を伝えるニュースに、青年ピアニストは顔を赤らめた。インターネットのリアルタイム検索ワードに自分の名前が出ているのが不思議だと言う。「ショパンのスペシャリスト」という肩書きについては「できればやめてほしい」と言った。「以前は『チョ・ソンジンらしさとは何か』といろいろ悩みましたが、もう悩まないようにしようと思っています。個性は無理やり作ってできるものではありません。ただ、体からにじみ出てくるものです。自然に」。
コンクール審査員のほとんどが10点満点中8点以上を付けたのに対し、唯一、フランスのピアニスト、フィリップ・アントルモンが本選で1点を付けたことが分かった時も、「気にしませんでした」という。「僕の音楽、そうでなければ僕のことを嫌っているのかもしれません。彼の意見を尊重して受け入れます。とにかく僕は優勝したんですから(笑)」。チョ・ソンジンは「生まれつきポジティブな性格」と言った。「演奏のスケジュールが埋まらなかったころも『一生懸命やればいつかはうまくいくだろう』と思っていました。『なんで僕のことを認めてくれないんだろう』という気持ちも、もちろんありました。でも、心を鎮めようと努めました」。何事にも「クール」なように見えるこの若者にも悩みがあるのだろうか。「些細なことかもしれませんが、演奏する時の僕の表情です。それが思い通りになりません。演奏に集中していると、自分でも気付かないうちにあんな表情になってしまいます」。
前途有望なこの若いピアニストは「コンクールで優勝しても、責任感が強くなっただけでほかには何も変わりません。ピアニストとしての人生はこれから始まるのですから」と言った。