12年前の大邱地下鉄放火事件の教訓を生かした新幹線

いかにして火災の延焼を食い止めたか
大邱地下鉄放火事件後、国交省が火災対策を見直し
天井やシートなどに難燃性素材を用い、各車両に消火器を2台設置
危険物の持ち込みめぐり課題も

 先月30日午前11時30分ごろ、東海道新幹線「のぞみ225号」の1号車で、林崎春生容疑者(71)が10リットルのポリタンクをリュックサックから取り出した。そしてポリタンクに入っていたガソリンを自分の体にかけたり、周囲にまいたりし、ライターで火を付けた。1号車の乗客たちは「火事だ!」と叫び、2号車に向かって逃げ、トイレに遭った非常ベルを押した。運転士が直ちに手動で列車を止め、乗務員たちが1号車に駆け付けて、消火器で火を消し止めた。



 この火災で、林崎容疑者と乗客の52歳の女性が死亡、26人が重軽傷を負ったが、残る約800人の乗客は無傷だった。1号車の壁には黒い煤(すす)が付着したが、それ以上火が燃え広がることはなかった。毎日新聞など日本メディアは、2003年に起こった韓国の大邱地下鉄放火事件をきっかけに、日本政府が車両火災を防ぐシステムを構築した結果だと報じた。



 日本の新幹線や地下鉄の監督官庁である国土交通省は、1960年代から火災対策を講じてきたが、当時の基準はたばこの火の不始末で火災が発生するという程度のものだった。だが、乗客が故意に列車内にガソリンをまいて火を放ち、約350人の死傷者を出した大邱地下鉄放火事件を受け、国交省は火災対策の基準を一から見直した。鉄道各社はエアコンの通風口や車両の天井、つり革、ドアの取っ手などに耐熱性の高い素材を用い、車両と車両の間のドアはいつでもロックできるようにした。今回の事件が発生した東海道新幹線を運行するJR東海は、座席や床だけでなく、各車両のドアにも難燃性の素材を使用した。



 国交省はまた、各車両に消火器を2台ずつ配置し、監視カメラを設置して、全ての客室の状況をリアルタイムで確認できるようにした。車両の出入り口には非常ベルがあり、乗務員が定期的に客室を見回って、特異な状況がないかどうか点検している。今回の事件が発生するや、国交省の関係者は「これまで講じてきた対策のおかげで、火が列車全体に燃え広がるのを防ぐことができた」と話した。



 だが、犯人がガソリン入りのポリタンクを、全く制止されることなく列車内に持ち込めたことから、手荷物チェックのシステムを補完すべきだと指摘する声が出ている。とりわけ、2020年に東京五輪を控えている日本は、テロ対策の充実が急務となっている。英国と大陸ヨーロッパを結ぶ「ユーロスター」は、テロに備えて空港と同様のセキュリティーチェックを行っている。新幹線を運行するJR各社は1日、緊急の対策会議を開き、新幹線の乗客が危険物を持って乗車するのを防ぐ方法について話し合った。



 一方、警察の調べによると、犯人の林崎容疑者は年金の問題で不満をあらわにしていたことが分かった。林崎容疑者が住んでいた東京都杉並区西荻北地区の住民たちはメディアの取材に対し「2カ月に一度支給される年金が24万円にすぎず、税金や公共料金を除くとほとんど残らない、と愚痴をこぼしていた」と話した。犯行前日、林崎容疑者がポリタンクを持って歩いているのを見た近隣住民が「暑くなるんだから(灯油は)いらないでしょ」と尋ねたが、林崎容疑者は「ガソリンスタンドに行く」とだけ言って立ち去ったという。また警察は、林崎容疑者の自宅などに遺書はなかったと発表した。

東京= ヤン・ジヘ特派員
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