東京特派員だったころの奇異な体験談だ。2001年12月、明仁天皇が日本記者団との会見で爆弾発言をした。まとめるとこんな風だ。
「桓武天皇(737-806)の生母が百済の武寧王(462-523)の子孫であると『続日本紀』に記されていることに、韓国とのゆかりを感じている。宮内庁楽部の楽師の中には、当時の(韓国からの)移住者の子孫で、代々楽師を務め、今も折々に(朝鮮半島から伝来した)雅楽を演奏している人がいる」
日本の皇室のルーツが古代の韓半島(朝鮮半島)とつながっていることを告白した「親韓」発言だった。歴史学界では誰もが認める事実だが、天皇自ら韓国との血縁関係に言及したことは衝撃的だった。当然、1面トップで扱われるレベルのニュースだ。
ところが、さらに驚いたのは翌日だった。翌日の日本の朝刊では、この発言が報じられていなかったのだ。唯一、朝日新聞が手短に報じただけで、ほかの日刊紙やテレビ局は全く扱っていなかった。日本の皇室に韓国系の血が混じっている事実を、それほどまで隠したかったのだろうか。明白な事実を恣意(しい)的に握りつぶすのも、日本が言う言論の自由なのか。国の目的のためなら時として報道さえしないという、その奇怪な「沈黙の談合」にぞっとしたことを、今でもよく覚えている。
韓国の検察が産経新聞の前ソウル支局長を在宅起訴したことをめぐり、日本が強く反発している。その気持ちは十分に理解できる。私自身も、前ソウル支局長の起訴は得るものよりも失うものが多い悪手だったと思っている。だが、これにかこつけて新たな嫌韓論を生み出し、広めようとする日本の極右勢力や一部の政界、マスコミの雰囲気には我慢ならない。韓国をまるで言論の自由を無視する「人権後進国」であるかのように言い立て、われわれの自尊心を傷つけているのだ。
先週の韓国外交部(省に相当)の定例会見では、産経新聞前ソウル支局長の問題をめぐり日本の記者たちが強い調子で報道官に質問をぶつけた。苦境に立たされた記者仲間のため、当然の質問だったのだろう。その中で「大韓民国は人権国家だといえるのか」という問題発言があった。この質問をしたのは産経新聞の編集委員だ。この記者は日本新聞協会の抗議の声明に言及し、韓国に言論の自由があるのかと問いただした。報道官がこうした質問に不快感を示し、一時、険悪なムードにもなった。
韓国の人権と言論の自由の現状については、人によって評価が分かれるだろう。だが、いくら私たちが不十分だとしても、日本に手ほどきを受けるいわれはないと思う。日本は間違いなく一流の先進国だが、言論の自由と人権の分野でもそうかと言われると首をかしげざるを得ないためだ。