【コラム】韓国社会の成熟度を試す『帝国の慰安婦』

 世宗大学の朴裕河(パク・ユハ)教授(日本文学)が、旧日本軍の慰安婦問題について本格的に分析した『帝国の慰安婦』という本を出版したのは、ちょうど1年前の昨年8月だった。慰安婦問題をはじめ、独島(日本名:竹島)、日本の歴史教科書、靖国神社参拝など、韓日両国が激しく対立している問題について、韓国社会の通念とは全く異なる意見を述べてきた朴教授が、覚悟を決めたかのように、その中でも最も熱いテーマを取り上げた『帝国の慰安婦』は、韓日関係に関心を持つ人々の間で話題になっている。この本を読んだ人たちは「合理的」な解決方式によって両国の「和解」を追求しようという朴教授の思いは理解しながらも、複雑な問題に対しあまりにも一面的なアプローチをしているのではないか、と懸念する人が多い。



 知識人の間にとどまっていた、朴教授をめぐる論議が一般人の間に広がるきっかけになったのは、今年4月末、朴教授が中心となって韓国プレスセンター(ソウル市中区太平路)で行った、慰安婦問題に関するシンポジウムだった。20年以上にわたって韓日両国の大勢の意見に埋もれてきた「第三の声」に光を当てようという趣旨を掲げたこのシンポジウムは、メディアから注目され、朴教授とその著書に対する関心を高めた。さらに6月半ばには、元慰安婦たちが朴教授を名誉毀損(きそん)の疑いで告訴し、『帝国の慰安婦』の販売禁止を求める仮処分を申し立てたが、これによって、出版されてから1年近くたったこの本の売り上げはむしろ急増した。



 『帝国の慰安婦』は、旧日本軍の慰安婦の歴史的な実像を扱う部分と、慰安婦問題の解決に向けての過程を分析した部分に分かれている。このうち、慰安婦に関する事実が、一般的に知られていることとは異なる部分があるという指摘は、それなりに説得力がある。「日本軍の管理の下で慰安婦の募集や慰安所の運営を担当していたのは、主に朝鮮人の業者だった」「植民地の出身である朝鮮人慰安婦は、占領地や敵国出身の慰安婦とは区別されていた」といった主張は、昨年8月にソウル大学の安秉直(アン・ビョンジク)名誉教授が発掘し公開した、日本軍の慰安所管理人の日記でも確認できる。慰安婦についての「記憶」を再構成しようとする朴教授の知的な取り組みには耳を傾ける必要がある。



 だが、慰安婦問題の解決をめぐる韓日両国の対立の責任を韓国に転嫁しようとする朴教授の主張には首をかしげざるを得ない。朴教授は1995年、日本が提案した「アジア女性基金」を通じた補償は前向きなものだったにもかかわらず、韓国がこれを拒否したことで「謝罪と補償」の道が閉ざされた、と主張している。だが当時、両国の基本的な立場はあまりにも懸け離れ、主張が食い違うのはやむを得ないことだった。それにもかかわらず、アジア女性基金を通じた補償を拒否するよう主導した韓国の慰安婦支援団体が「権力化」したとか、「韓国政府が慰安婦問題の解決に向け努力しないのは憲法違反」という2011年の憲法裁判所の決定について「不正確な情報や認識を根拠にしている」と批判するのは、韓国側の苦悩をあまりにも軽視するものだ。朴教授が、自らの思いが韓国で受け入れられることを望むのであれば、自らの主張も、自らが批判する見解と同じように、真実の一部を内包しているだけだという謙虚な態度を示す必要があるのではないだろうか。



 朴教授をめぐる論争を収める方法は、もつれた状態にある二つの側面を切り離してアプローチすることで見いだすことができる。そして慰安婦問題が国際社会の関心事となっている状況で、その成功の成否は、韓国社会の成熟度を内外に示すリトマス試験紙になることだろう。

李先敏(イ・ソンミン)世論読者部長
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