【コラム】日本が「安全な国」と評される理由は何か

事故原因の調査と安全対策を徹底する日本式の災害対応

 福島第一原発での事故当時、発電所の所長だった故・吉田昌郎氏は「日本を救った男」としてたたえられている。事故当時、吉田氏は淡水の確保が不可能であることを知り、海水を利用して原子炉を冷却する緊急対応を取ったが、東京電力本社は海水による冷却作業の中止を指示した。塩分の影響で原子炉がさびてしまい、最終的に廃炉しなければならない恐れが出てくると考えたからだ。

 吉田氏は本社に「指示通り行う」と連絡したが、その一方で職員たちには海水の注入を続けるよう指示した。もしこの時点で海水の注入を中断していれば、東京を含む日本のほぼ半分が放射能に汚染されていたとの指摘が後から出たことで、吉田氏の対応は大きく称賛された。しかも吉田氏は昨年7月に食道がんで死去したため、吉田氏は伝説化されるに至った。

 しかし外国人記者の立場から考えると、吉田氏の伝説化は到底理解しがたい。吉田氏は見方によっては原発事故の元凶の一人でもあるからだ。発電所の所長に就任する前の吉田氏の役職は「東京電力原子力設備管理部長」だった。実は震災前から「発電所の津波対策が不十分」という内容の報告書は出されていたが、吉田氏はこれを無視していたのだ。そのため吉田氏に対しては「現場の責任者として安全対策への取り組みも不十分で、事故後の対応もしっかりとできなかった」という批判があるのも事実だ。しかも吉田氏は先日公表された証言録で「非常用冷却装置の構造についてよく分からず、事故に適切に対処できなかった」と語っていたことも分かった。ところがこれについても日本社会は「自らの過ちをも痛烈に反省した」という賛辞を送っている。

 原発事故という戦後最悪の危機に直面した日本社会は、何か違和感を覚えるほど英雄作りに力を入れていた。天皇皇后両陛下が避難所を何度も訪問して被災者を慰めたことについても「混乱する日本社会を落ち着かせた」という賛辞が相次いだ。

 原発事故と関連して処罰を受けた人間もいない。市民団体は東京電力や複数の政府関係者を告訴・告発したが、検察は全員を不起訴とした。政権は民主党から自民党に移ったが、かつての政府に対する責任の追及もなかった。そのため「誰も責任を取らない無責任社会」という批判も出ている。

 それでも日本が「安全な国」と評される理由は何か。それは事故原因に対する調査や再発防止に向けた安全対策が、他のどの国よりも徹底しているからだ。政府や国会、民間団体はそれぞれ独自に調査委員会を立ち上げ、関係者から聞き取り調査を行って報告書をまとめた。民間の専門家で構成された政府の調査委員会に至っては、1年1カ月かけて700人から聞き取り調査を行った。これらの委員会はどれも「安全対策を徹底していれば防げる事故だった」という結論を下している。ただし事故の責任については特定の人物ではなく、社会や組織の仕組み、文化などに起因すると結論付けた。

 事故発生から3年が過ぎたが、安全対策が終わっていないという理由で、全国各地の原発はまだ1基も稼働していない。原発停止に対応するため、火力発電用の液化天然ガス(LNG)を輸入する費用は年間36兆ウォン(約3兆6000万円)に達している。静岡県の浜岡原発の場合、高さ22メートルの防波堤や放射性物質拡散防止のためのフィルターなど10通りの非常用設備を新たに設置し、安全対策に3兆ウォン(約3000億円)の巨額を投じたが、住民の避難対策がまだ不十分との理由で再稼働の見通しは立っていない。責任者の処罰をしっかりと行わないにもかかわらず、日本が「安全な国」と評されるのは、天文学的な資金や時間を惜しまず事故原因に対する徹底した調査を行い、その結果に基づいて一層の安全対策を進め続けるのがその理由のようだ。

東京= 車学峰(チャ・ハクポン)特派員
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