【萬物相】霊岩でのF1韓国GP

 数年前にフランスを訪問した際、若者たちが「ジネディーヌ・ジダンは巨額の年俸を受け取っているようだが、ミハエル・シューマッハに比べれば大したことない」と話しているのを聞いたことがある。ジダンは言うまでもなく世界のサッカー界で英雄ともいうべき人物だ。一方のシューマッハについてはそれまであまり聞いたことがなかったが、後に、ドイツが生んだ自動車レースの天才だという事実を知った。ジダンの年俸は当時、韓国の通貨で180億ウォン(現在のレートで約17億3000万円、以下同じ)ほどだったが、同じころシューマッハは790億ウォン(約75億9000万円)を稼ぎ出していたという。

 シューマッハはフォーミュラワン(F1)で7回の総合優勝という記録を打ち立て、昨年引退した。F1は世界最高峰の自動車レースで、最高速度は時速360キロに達する。シューマッハは2007年、ドイツでタクシーを利用した際、タクシードライバーの代わりにハンドルを握ったことがあるそうだ。その理由は「飛行機に乗り遅れそうだったから」らしい。このときシューマッハは一般道路を時速163キロで走り、何とか時間に間に合った。助手席に座っていたタクシードライバーは「シューマッハは急な曲がり角でも絶対にスピードを落とさなかった」と驚いていたという。

 F1は五輪やサッカーのワールドカップ(W杯)に匹敵するスポーツイベントで、大会ごとに20万人が会場で観戦し、185カ国にテレビ中継され全世界5億5000万人がレースを楽しむ。各国の自動車メーカーは自分たちのブランド価値を高めるため、出場する車には最先端の機械工学、流体力学、電子工学などの技術を存分に投入する。レースは世界を回りながら年間20回ほど行われるが、韓国では2010年から全羅南道霊岩でF1コリア・グランプリ(GP)を毎年開催してきた。

 おとといパリで開催された世界モータースポーツ評議会総会で、2014年のF1カレンダーの日程から韓国GPが除外されることが決まったという。霊岩F1組織委員会とF1を運営するフォーミュラワン・マネジメント社との開催権料交渉が決裂したためだ。霊岩F1は2010年に725億ウォン(約70億円)の赤字を出したのに続き、11年には610億ウォン(約58億6000万円)、12年には386億ウォン(約37億円)、今年は180億ウォン(約17億3000万円)の赤字を記録し続けている。そのため韓国のF1組織委員会はフォーミュラワン・マネジメント社に年間開催権料463億ウォン(約44億5000万円)を212億ウォン(約20億4000万円)にするよう、さらなる引き下げを求めたが、これが拒否されたのだ。

 霊岩F1を取材してきた海外メディアは「サーキットの整備が不十分」「観客席がガラガラ」「会場周辺には一流ホテルがなくそれ以外の宿泊施設もひどい」などと毎年同じように批判してきた。また今年10月の大会ではサーキット内の人工芝が破れている様子が世界に中継された。観客も15万人にとどまり、昨年に比べて1万人減った。全羅南道は「F1を開催すれば国のイメージを高め、地域経済を活性化させることができる」などと訴えてきたが、実際の経済効果は微々たるもので、しかも海外には「韓国はモータースポーツの後進国」というマイナスのイメージを与える結果を招いてしまった。いわば「滑走路を整備せずに飛行機から先に飛ばした」ようなものだ。開催交渉に関しては引き続き行うそうだが、見通しは決して明るくないという。これまでF1開催のために投入された資金は5000億ウォン(約480億円)を上回る。F1の開催が地方自治体によるまた一つの投資失敗のケースとして残らないよう、引き続き新たな対策と方法を模索しなければならない。

朴海鉉(パク・ヘヒョン)論説委員
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